Kinari

恋愛途上─幼馴染み、春
手塚

土手の薄い草地に座り、河川敷で遊ぶ子供たちを下に見る視界。
ゆるい弧を描いて、右から左へサンダルが抜けていく。

さっき転んでストラップを切ってしまったの、低めに蹴り上げた足に試される明日の天気は、きっと曖昧だ。

悪足掻きするようにストラップを揺らして落ちたサンダルが立てる軽い落下音を、違う誰かの耳で聞きながら。

『曇り、のち…晴れ…』

落ちかけた陽にみるこの後の天気に、傘を持って来れば良かったと思う。

「────ときどき…雨?」

ようやく自分の耳で聴いたの声は妙に弾んでいた。
でも、急な傾斜を転がっていくサンダルの落ち着かない動きでは、どれが本当か分からない。

「結局明日の天気は?」

頼りなく腕を揺らし土手を下りていく背中に訊けば、冷たさの緩んだ風に靡く髪を手で押さえながら、は振り返る。

「どう思う?」

それなりの遠さで表情まで見えなかったが、仰ぐ姿勢で俺を見る彼女を、なんとなく綺麗だと思った。

「訊いたのは俺だろう?」
「答えになってないわ。」
「それも俺の台詞だな。」

嘆息を混ぜた俺の声には答えず、悪戯っぽく口の端を上げて身体を返すに仕方なく立ち上がり。

。」

まだ傾斜を下りていく小さな背中を追う。

川を渡る風には微かな雨の匂い。

多分あとどれだけもしないうちにひと雨来るだろう。
いつの間にか子供たちの姿も消えているし、陽の傾き加減から見てもそんな時間だ。

「帰ろう、もうすぐ降ってくるぞ。」

追い付いた腕を掴みかけた時、俺の手からその身体ごと、は擦り抜けた。

「国光、たんぽぽ。」

膝を抱えるようにしゃがみ込んだ彼女の足先に視線を落とすと、小さい黄色がぽつりぽつりと見える。

「ああ、もう春だからな。」
「ね、もう春。」

それを指先で撫でるが、なぜかとても儚げで。

、」
「え?…国光?」

抱く不確かな不安とくすぐったさに、思わず腕を掴んで引き上げた。

最近覚えることの多いこんな感情には、なかなか馴染めない。
それならいつになったら慣れるのか、或いはどうしたら解消できるのか、気付けばそんな事ばかり考えている気がする。

不思議そうに瞳を凝らす彼女の、幾度となく見ている表情すらその対象だ。

「行くぞ。」
「もう?」

躱したい訳じゃなかった。
けれど、じっと俺を見るの瞳に覚束なくなるのは確かだから。

「雨の匂いが強くなってる。」
「うん、雨の匂い…ちょっと待って。」

くん。と小さく雨を嗅ぎ分ける仕種を見せたが、ストラップの切れたサンダルへ慌てて足を入れたのを確かめ、握り変えた小さな手を引いた。



明日の天気予報も確実じゃないのなら、知らない方がいい時だってあるんだ。