Kinari

恋愛途上─幼馴染み、春
柳


開けた窓から入り込む、もうすっかり柔らかくなった空気が、ほんの僅かカーテンを揺らす。
過ぎる時間もゆっくり感じる春の午後はのどかで他愛なく、そして少し気怠い。

きっと年度変わりの一区切りがそんな風に感じさせるのだろう。
翳り始めた陽の、部屋に差し込んだ斜光も、それを助長しているように思う。

こんな穏やかな日なら、が俺の部屋へ来てすぐ微睡んでも仕方ないと。

──全くは。
  いつまで経っても幼さが抜けないな。

机に開いた本の上、両腕を枕に俺の方へ顔を向けて眠るを見遣れば、あまりに安心しきった表情が映って口角を上げる。
頬に掛かった髪の一筋をよけてやろうと手を伸しかけ、ふと、見慣れたの何かに、僅かな齟齬感を抱いた。

注意深く伺うより早く気付いたのは、その目元。

──こんなに睫毛が長かったのか…。

幾らか繊細な印象を放つを改めて知れば、やはり幼いままではないと言われているようで少し戸惑う。
その時、が首を竦めて肩を寄せる仕種を見せた。

「…─ん…」

聴こえるか聴こえないか程の微かな声は、単に身じろいだだけのものだ。
そう分かっていながら、咄嗟に指を握り込んで。

──その理由を、どこに見つければいいだろう…。

抱いた脆い感覚に、そっと手を引く。

当然、疚しい気持ちなど微塵もなかった。
特に意識する関係でないなら、そんなことを掲げるまでも無い。

ただ。
もう気軽に触れて良い歳ではないのだと。

互いの相違を具に見た気がして、から視線を外した。

外した目の先、窓の向こうでは、翳るばかりの陽がその色を赤く、西の彼方に隠れようとしている。
空気も冷たくなっていて、なるほどさっきの身じろぎは寒さを感じた所為だろうと、窓を閉めるつもりで立ち上がった刹那──

「蓮…くん…」

それは本当に小さく、途切れていた。
けれどこの間合いで名前を呼ばれれば、きっと誰でも焦るに違いない。

胸を射抜かれた思いで振り返り、 へ目を遣った。 だがその瞼は下りたまま。
どうやら寝言だったらしいことに気が緩み、肩で息を落としたのと同時に、別の事実に気付いた。

……眠っているのに俺を呼ぶとは…。

そして覚える、不明瞭な感情。

もう一度微かに身じろぐ、やはり安心し切った寝顔のに戸惑いは隠せない。
それでもこの、ともすれば面映くもある感覚の暖かさが、胸に心地良いことは確かだ。

そう思えば、いま彼女を起こしてしまうことが躊躇われ、音を立てないよう慎重に窓を閉めて、何か肩掛けの代わりにと部屋を見渡す。
ふと目に付いたテニス部のジャージは小柄なにあまりそぐわないように思ったが、これなら肩を覆うのに充分だろう。

そっと置くように肩に掛けたジャージが思った通りには大きく、頬まで隠してしまったことを幾らか惜しく感じながら、指先で撫でるように睫毛に触れた。
そのあと彼女の見せた、布へ小さく顔を寄せる仕種を愛おしく感じたことには、自分でも気付かないふりをして。

さて、が目を覚ますまで、どの本を読もうか。